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残留農薬基準値の決定に関与しているのは、食品の問題に関係している国の各省庁です。基準値が決定されるまでにはいくつかの段階があり、さまざまな手続きを踏まえた上で最終的に基準値が確定します。ここでは残留農薬基準値が決まるまでの流れや、基準となる数値を決める具体的な方法について紹介するので、残留農薬に関心のある方は参考にしてください。

残留農薬基準値が決まるまでの流れ

残留農薬基準値は新しい農薬が開発されるごとに決定しています。農薬を開発した事業者などは、農薬の使用を開始する前にまず登録申請をする必要があります。国内で使用する農薬を登録する場合に申請先となるのは、農林水産省です。

申請を受けた農林水産省は、厚生労働省に残留農薬基準値の設定を依頼します。なお農林水産省では、独立行政法人である農林水産消費安全技術センターに検査を指示することもあり、指示を受けたセンターでは、依頼された検査をおこなって結果を農林水産省に報告します。

農林水産省から残留農薬基準値設定の依頼を受けた厚生労働省では、まず申請があったことの確認をおこないます。次に具体的な申請の内容を確認してから、リスク評価を食品安全委員会に依頼。食品安全委員会では残留農薬を摂取することにより発生する可能性のあるさまざまなリスクを総合的に検査します。

毒性に関する評価を中心にして検査がおこなわれ、慢性的な毒性に関する検査も実施されます。発がん性に関する検証もおこなわれ、催奇形性に関する検査もあわせて実施されています。

食品安全委員会や厚生労働省の仕事

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食品安全委員会で毒性に関する評価が一通り終了した後は、残留農薬基準値の原案が委員会で作成されます。案の内容がある程度固まった後はパブリックコメントを収集し、多くの人の意見を参考にしながら再度内容の検討がおこなわれ、最終的に残留農薬基準値が決定されます。

決定された基準値は依頼をした厚生労働省に通知され、厚生労働省では食品安全委員会の作成した基準が適切なものであるかどうか、独自に検討します。この時、厚生労働省が諮問をおこなうのが薬事・食品衛生審議会です。

依頼を受けた薬事・食品衛生審議会では基準値の設定に関する答申を厚生労働省におこない、こうした答申も参考にしながら、厚生労働省ではすみやかに、残留農薬基準値の手続きを進めていきます。パブリックコメントの収集は厚生労働省でもおこなわれ、WTOなどの国際的な機関とも協力しながら、残留農薬基準値を決めるための幅広い情報を集めていきます。

残留農薬基準値は省令や告示という形で公になりますが、公開する前に厚生労働省で作成されるのが原案です。作成された原案を一緒に協議するのは消費者庁で、協議の依頼を受けた消費者庁は、省令や告示の原案に関する協議の回答をおこないます。

こうした過程を経て最終的に、省令や告示として残留農薬基準値が正式に公表されます。

残留農薬基準値に関する制度

残留農薬基準値を国で定める必要があるのは、食品に残された残留農薬を消費者が口にすることで、健康に悪い影響を与える可能性があるからです。農作物の栽培に使用された農薬は雨に流されて大部分が収穫前に消滅することもありますが、使う時期や量によっては、収穫の時にも多くの残留農薬が残されている場合もあります。

残留農薬基準値を決定するために平成18年からおこなわれているのがポジティブリストという制度です。

この制度が導入する以前にも残留農薬に関する一定の規制はありましたが、ポジティブリスト制度がおこなわれるようになってからは、より厳格に残留農薬の規制がおこなわれるようになりました。ポジティブリスト制度が施行される以前は、250種類の農薬と33種類の動物医薬品などに限って、それぞれ個別に残留基準値が設定されていました。

ですが、上記の農薬以外のものについては規制の対象外となっていたために、残留基準値を設定することができませんでした。

ポジティブリスト制度では799種類の農薬などについて残留基準値を設定していて、個別の残留基準が決められていない食品に関しては、0.01ppm以下という基準が一律に適用されます。なお人体に悪い影響を与えないことが明白である65種類の物質については、規制の対象外になっています。

安全性を確認するために用いられる指標

残留農薬基準値を正確に決定するために用いられているのは複数の指標です。ADIも残留農薬基準値を決定する場合に考慮されている指標の一つです。ADIとはAcceptable Daily Intakeの略語で、人間が1日に摂取できる許容量を意味しています。

ADIでは長期間の摂取における人体への影響を特に重視していて、人間が死ぬまで毎日一定の量を摂取し続けたと仮定しても、健康に悪い影響を与えないと推定できる量がADIです。ポジティブリスト制度が施行された当初はADIを中心にして残留農薬基準値が検討されていましたが、その後他の指標も、決定に際し重要視されるようになりました。

平成26年度から導入されているのがARfDという指標で、これはAcute Reference Doseのことです。日本語にそのまま訳すと急性参照用量という意味になります。人間が24時間もしくは、それより短い時間の間に口を通して摂取しても、健康に悪い影響が現れないと推定できる摂取量がARfDです。

食品安全委員会では各種の検査を実施し科学的な検証を進めることで、残留農薬に関するADIやARfDの値を決定しています。

残留農薬を検査するポジティブリスト制度

食品の安全を守るための厚生労働省の取り組み

厚生労働省では、残留農薬基準値を正確に決定するために、日本における食品ごとの平均的な摂取量も調査しています。全ての国民の平均的な摂取量だけではなく、特定の集団に属している人たちの平均的な摂取量も調査の対象です。

こうした集団として挙げられるのが幼児や妊婦、高齢者などのグループです。こうした人たちは、残留農薬の悪い影響を受けやすいことから、厚生労働省では詳細に調査を実施しています。厚生労働省で残留農薬基準値の設定と一緒におこなわれているのが、食品中に残っている農薬の量を確認するための作業です。

全国各地の地方自治体と協力して残留農薬の実態を調べることにより、安全な食品の流通を推進しています。検査の結果により、法令に違反する残留農薬が発見された食品に対しては、廃棄などの措置が実施されています。

【調査結果付き】海外農作物の残留農薬について解説します

安全な食品の流通に役立つ残留農薬基準値

残留農薬基準値に関する手続きなどについて詳しく紹介してきましたが、具体的な基準値を設定するまでには、さまざまな機関で検証がおこなわれています。基準値を最終的に決定しているのは厚生労働省ですが、農林水産省や食品安全委員会も決定に大きく関係しています。

食品の安全を守るために、残留農薬基準値の決定はこれからもますます、重要な意味を持つようになるのではないでしょうか。