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健康志向や環境保護が注目されたことにより、農作物に使われる農薬への関心も高まりました。病害虫の被害を防ぎ、収穫量を安定させるのに農薬は不可欠ですが、一方で人体に悪影響をもたらす有害な成分が含まれているのも事実です。

残留農薬の検査は安全な農作物を届けるためにも必須な行為と言えます。ここでは残留農薬の問題や検査の方法、通知法に関する事柄をお伝えしていきます。

残留農薬を検査するポジティブリスト制度

近代農業と農薬の関係

農業の歴史は病害虫との戦いの歴史と言っても過言ではありません。どのような品種改良を施しても人の手で収穫量を完全にコントロールするのは困難です。農作物は自然の中に設けた田畑で栽培する物なので、どうしても気候の影響を受けてしまいます。

病気に感染するリスクがある他、柔らかい若芽や実が害虫に食い荒らされることも珍しくありません。病害虫が原因の飢饉は何度も起きていますが、これは農薬を使わない近代以前の古い農業にありがちな問題と言えるでしょう。

広大な農地で生じた病害虫の被害を人の手だけで根絶するのは現実的な方法ではありません。被害に遭った作物を取り除いたとしても、わずかでも残してしまうとそこから再び被害が拡大します。農薬の使用は農地を効率的に管理できるメリットがあります。

散布された薬剤は農地全体に万遍なく行き渡り、病原菌や害虫を根絶してくれるのです。作業に要する時間も短いので、農業従事者の生活に余裕を持たせることができます。農薬が開発された当初は用途ごとに使い分ける必要がありましたが、技術の進歩によって複数の効果を持つ薬剤が開発されたことにより、散布の手間も簡略化されています。

農薬を使用する近代農業は農作物の増産と収穫量の安定化に繋がり、食文化の発展にも貢献したと言えるでしょう。

農薬がもたらす問題と安全性について

農薬は農業の効率化や収穫量の安定化などメリットが多い反面、周囲の環境に悪影響をもたらす側面があるのも事実です。病気や害虫を根絶する成分は他の生物にも有害なので、農地周辺の生態系が乱れるケースも少なくありません。

また、人体に有害な成分も含まれていることから、農業従事者が体調不良に陥ることもあります。特に問題視されるようになったのは市場で流通している農作物に付着した残留農薬です。

栽培時に散布した農薬は雨水で洗い流される他、空気に触れると自然に分解するように作られています。

しかし、すべての成分が完全に除去されるとは限らず、環境によっては微量の農薬が農作物に残ってしまうことがあります。農薬が付着していたとしてもその量はわずかなので、摂取しても即座に重大な健康被害に見舞われることはありません。

しかし、人体に有害な成分が体内に入ってしまうのも事実です。残留農薬による具体的な被害の実例が無いので一概に言い切ることはできませんが、長期的に摂取を続けるのは避けるべきと言えるでしょう。

小さい子供や高齢者、妊娠中の女性など体力が低い人は特に影響が大きいと言えるので、食卓の安全を守るためにも残留農薬の検査は欠かせません。

残留農薬検査は専門の業者に依頼するのが一般的

残留農薬の有無や量を検査するためには専用の設備が必要です。農薬に含まれている成分がどのような影響をもたらすかを熟知していることも正しく検査を行う条件なので、専門の業者に検査を依頼するのが普通になっています。

残留農薬の検査手順は業者ごとに多少の違いがありますが、農作物のサンプルを採取し、不要な成分を取り除いたうえで農薬の有無や量を調べる点は共通しています。また、農薬にはそれぞれ残留基準値が設けられています。

厚生労働省が定めた数値で、摂取しても人体に影響がないことを示しています。残留基準値は農薬と農作物の組み合わせで異なるため、気づかないうちに数値を超えてしまう可能性は否定できません。市場に出した後で大きなトラブルに見舞われるのを防ぐためにも、残留農薬の検査は決して疎かにはできないのです。

通知法の詳細と遵守する意味

通知法は通知試験法とも呼ばれている、農作物の残留農薬検査に関する法律です。農薬の検査方法や付着した農薬の量を算出する方法、農作物との組み合わせによって異なる残留基準値との比較方法などが細かく定められています。

これらの規定に抵触すると安全性が保たれていないと見なされ、その農作物は市場には出せません。また、基準値を大幅に上回っていた場合は処罰の対象になる可能性もあります。通知法を遵守するのは安全な農作物を食卓に届けるだけではなく、農業従事者の安全意識を向上させる意味もあるのです。

市場に出回っている農作物の正しい見分け方

専門業者が入念に検査を行うことにより、人体に悪影響をもたらす農薬が付着した農作物が市場に出回ることはほとんどありません。それでも稀に、残留基準値を上回る量の農薬が検出されることがあります。農作物を安全に食べるためには消費者の一人一人が正しい知識を持つことが重要と言えるでしょう。

野菜や果物によっては表面に白い粉のような物が浮き出ていることがあります。粉薬のような見た目なのでこれが農薬と誤解されますが、白い粉は農作物に含まれている脂肪です。脂肪は水を弾くため、ツヤ出しのワックス剤と誤解されるケースもあります。

しかし、白い粉は収穫してすぐに落ちてしまう物なので、むしろ安全かつ鮮度が高い証と言えます。野菜や果物を美味しく食べるなら白い粉が出ている物を選ぶのが賢い方法です。また、ねじれていたり先端が分かれているなど変形した農作物も農薬による悪影響と誤解されることがあります。

農作物の変形は水不足の他、成長期に石や木の根などの障害物に触れていたのが原因です。また、元々そのような形状になる品種も存在します。農薬で農作物が変形することはありえないので、そのような物を食べても何の影響も受けないと言えるでしょう。

市場で流通している農作物は厳しい検査基準をクリアした物がほとんどなので、迷信や誤った常識に惑わされず、冷静に判断することが大切です。

生産者と消費者の双方に正しい知識が求められる

農作物の品質を保ち、収穫量を安定させるためには農薬の使用が不可欠です。その一方で人体に有害な成分が残ってしまうおそれもあることから、農薬は正しい方法で扱う必要があります。通知法に基づいた残留農薬の検査は安全な農作物を市場に出すための必須作業です。

また、消費者の側も農薬に関する正しい知識を持ち、新鮮で美味しい物を選ぶように心がけます。