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スーパーマーケットに行くとたくさんの生鮮食品が売っています。筆者も「キャベツが安い!」「サクランボが出てきた、旬だなー」なんて思いながら、「有機栽培」「オーガニック」と書かれたパッケージを見かけます。「有機栽培の野菜は高い!」「オーガニックって意識高い系か!」なんてツッコミもしますが、そもそもこのような表示があるのは、我々消費者に「農薬を使っていないから安心して食べられますよ」と伝えるためです。

日本の農薬の残留基準は厳しいらしい

ほとんどの野菜や果物は育てる過程で農薬を使っています。農薬と言っても種類がありますが、「毒と薬は紙一重」と言われるように、問題となるのが残留農薬です。農薬による健康被害を起こさないようにする仕組みは複雑な取り決めの中で成り立っていて、日本では<農薬取締法>で農薬の使い方、また<食品安全基準法>では残留基準値がポジティブリスト制度(残留農薬の基準値が定められていますが、リストにない農薬は全部不可となります。

)によって決められています。世界的にはコーデックス委員会(国際連合食糧農業機関と世界保健機関が管理している機関)による国際基準が定められている農薬もあり、日本も残留基準値の中に取り入れています。他にも農薬に関する制度としてGAP認証、JAS規格などのさらに厳しく農薬の基準を定めるものがあり、この基準をクリアすると箔がつく(有機栽培、オーガニックの表記ができるなど)仕組みになっています。

まだ農薬の危険性が十分に整備されていなかった時代は、化学物質による中毒事例が度々起きていました。だんだん化学物質の有毒性が問題視されてきて、最近では農薬を減らした食品が重要視されているのです。

残留農薬を検査するポジティブリスト制度

有名な事例といえば、中国冷凍餃子事件

2008年1月に起きた中国冷凍餃子事件。ニュースでも大きく報道されたので覚えている方も多いのではないでしょうか。中国・河北省の天洋食品が製造した輸入の冷凍餃子を食べた人が、けいれんや意識を失うなどの中毒症状を起こしました。

残留物を検査すると高濃度の有機リン系殺虫剤メタミドホスが検出され、2月には同じメーカーの製品からも類似の農薬物が検出されました。これは工場の従業員による意図的な毒物混入だとして事件は終わりましたが、真相はよくわかっていないようです。

この有機リン系殺虫剤の「有機」は化学物質の「有機」なので、「有機栽培」とは意味が異なります。この事件で検出されたメタミドホスは日本では使われませんが、世界各国ではある程度の制限の下で今だに使われている農薬です。

どうやら日本では、2008年より以前から中国産の野菜から基準値超えの有機リン系殺虫剤が度々検出されていたようです。

ちなみに、中国では冷凍餃子事件以降、いくつかの有機リン酸系殺虫剤は製造と使用を禁止するようになっています。

輸入食品の残留農薬の事例

海外から輸入した食品から農薬が検出されることは毎年のように起こっています。厚生労働省が発表した2021年度の「食品安全基準法に基づく輸入食品の違反事例」によると、タイ産のスナップエンドウ、さやえんどう、台湾のバナナ、韓国の唐辛子、エクアドルのカカオ豆、ベトナムの冷凍唐辛子、バナナ、ドリアン、インドのクルマエビ、中国の活あさりなどから農薬が検出されたようです。

「なんでエビやあさりから農薬が出るの?」と疑問に思うかもしれませんが、海産物は藻の繁殖を防ぐために除草剤を撒くことがあるからです。リストを見た限り、検出されているのは除草剤や有機リン酸系殺虫剤以外の殺虫剤ばかりでした。

…除草剤だから有機リン酸殺虫剤より安全というわけではないですけどね。ベトナム戦争でアメリカ軍がジャングルを一掃するために使った枯葉剤(TCDD)は化学兵器ですが、元々は除草剤として開発されたものです。TCDDのような薬物はのちのちダイオキシン系と呼ばれて普通の除草剤とは区別され、現在では農薬として使われることはありません。

逆に有機リン酸系殺虫剤も全部危険というわけではなく、あくまでも化学物質の種類ごとに名前が分かれているだけです。例えばダイアジノンという有機リン系殺虫剤は日本でも使われています。

国内での残留農薬の事例

日本では<農薬取締法>によって使う農薬が決まっていますが、基準値を超えてしまう事例は度々あります。

2019年に厚生労働省が発表した農薬使用状況の調査によると、476戸の農家のうち1件から農薬の不適正使用(原因は使用量を間違えていたこと)が見つかり、また農産物476検体からは2件の残留基準値を超えた農薬の使用が認められました。

問題のあった検体の一つは小松菜で、農薬の使用量を間違えたことが原因でした。もう一つはにんじんで、撒いた量は正しかったのですが、土が乾燥状態にあったことと、その年の降水量が少なかったことで農薬がきちんと土に浸み渡らず、にんじんが農薬をたくさん吸収してしまったというのが原因のようです。

国産の農産物は比較的安全なイメージがありますが…野菜を作っているのも人ですからね。ヒューマンエラーによる残留農薬の基準超えは起こり得るようです。また天気や土の性質によっても、意図しない農薬の残留が起こってしまうようです。

残留農薬はどういうもの?原理や知っておきたい規制などについて

農薬は怖いだけ?

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少し余談ですが…筆者も育てていたトマトにダニがついて殺虫剤を使ったことがあります。化学物質はできるだけ使いたくなかったのですが、仕方なく土壌への残留が少ないグリセリン酸脂肪酸エステルを含む殺虫剤を購入したのです。

この農薬は気門封鎖剤というもので、簡単にいえば植物にふりかけることで物理的にダニを窒息させます。農薬としては非常に安全性が高く、逆にいえばパワーに劣る農薬でした。結局トマトはダニに負けて枯れてしまったのですが、この経験で野菜作りの難しさを感じることができました。

虫害や病気に押し負けないためには強い農薬を使うべきですが、農薬を使いすぎると体に悪いものができてしまいます。農家はずっとこのジレンマと戦ってきて、厳しい制度の中でも頑張っていいものを作っているんだなと痛感したのです。

農薬を使うことには意味がある

農薬に限らず化学物質による事件はたくさんあるので、農薬も危険というイメージが浸透しています。残留農薬は過去の事件と照らし合わせると「怖い」「危険だ」と避けたくなるものですが、農薬そのものは人が安定して食べ物を確保するために使われてきたものです。

農家は適切な使用法を守り、消費者の我々も農薬について理解を深めることが大切ではないでしょうか。